強引社長といきなり政略結婚!?
◇◇◇
玄関の前でふたり揃って深呼吸をする。
いつも堂々としている一成さんが、落ち着きなくそわそわしているのが伝わってくる。
でも、それは私も同じ。人生初、男性とのお泊りの上、その相手と顔を揃えて帰って来たのだから。恥ずかしいやら、気まずいやらだ。
三月とはいえ朝の空気は、火照る頬を冷やすにはもってこい。
もう一度軽く息を吸って吐き、いよいよドアにカギを差し込んだ。カチャリと音が鳴り、泥棒でもないのにギクリとする。
そっと開けたつもりなのに、隙間の向こうに人影が見えたものだから、もう一度心臓が飛び跳ねた。
多恵さんだった。
「おかえりなさいませ」
そう言っていつものように出迎えられては、ドアを閉めて逃げるわけにもいかない。俯いたまま玄関へと足を踏み入れた。
「まぁ! おふたりお揃いでございましたか! さぁさ、朝比奈様もどうぞお上がりくださいませ」
多恵さんが一成さんの分のスリッパも素早く用意する。
「いえ、多恵さん、ここで失礼させていただきます。この後、早急に行かなければならないところがありますので」