強引社長といきなり政略結婚!?

まさかとは思うけれど……。
多恵さんの顔をじっと見る。


「朝比奈様と汐里様のお顔です」


――やっぱり。
多恵さんは大真面目な顔だった。

多恵さんのことだ。きっと、私が初めて男の人と朝帰りしたことを記念して焼いたつもりなのだろう。この分だと、今夜は赤飯が出てくるかもしれない。


「――ん! うまい!」


すかさずクッキーに手を伸ばした一成さんは、ひと口食べて喜色満面だ。


「朝比奈様にそう言っていただけて嬉しゅうございます」


多恵さんは顔を綻ばせた。
紅茶のおいしさは言うまでもなく。私たち四人は、しばし紅茶とクッキーを堪能した。

ソーサーをテーブルに戻すと、一成さんが「では、そろそろ失礼します」と立ち上がる。


「一成くん、こちらのことでいろいろと煩わせて申し訳ない」


父は座ったまま頭を下げた。

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