強引社長といきなり政略結婚!?
「頼もしい恋人だ。さすがに俺が見込んだだけのことはある。よし、今夜はなにか精のつくものでも食べに行こう」
「あ、ごめんなさい。今夜は明日の準備もあるので早目に帰ろうかと思います」
アクセルを踏み込んだ一成さんは、拍子抜けしたように「……そう?」と言った。
「なんか振られた気分だな」
「振ってないですよ。一緒にいるためですから」
私たちの結婚がかかっているのだから。
明日はなんとしても勝たなくては。
膝の上で小さく拳を握る。
ほんの数ヶ月前は、そんな風に思える相手と巡り会えるとは思ってもいなかった。
お見合いは失敗続き。デートまでこぎつけたとしても、そこでお転婆ぶりが明るみになって辞退されてばかり。一生独身を貫く覚悟も必要なんじゃないかと。
そんな私にこんな出会いがあるなんて。人生捨てたもんじゃない。
「俺たちの未来は汐里の双肩にかかっているってわけだ」
「一成さんに言われると、なんだかプレッシャーが……」
強気でいたつもりなのに胃がキリキリと痛むような気がしてならない。
「あんまり思いつめるな。たとえ負けたとしても、俺は汐里以外と結婚するつもりはないから」
車が静かに停まる。赤信号だった。
私の髪を撫でた一成さんの指先が、私の頬を伝って顎へ到達する。
シートから身を乗り出すようにして近づく彼の顔。
指先で引き寄せられるように顎を持ち上げられ、ゆっくりと目を閉じた。
唇を重ね合せるだけの長いキス。それは、後続車にクラクションを鳴らされるまで続いた。