強引社長といきなり政略結婚!?
どうにもならない恋情


「汐里様、お疲れさまでございました」


多恵さんは、紅茶の甘い香りを連れて現れた。
帰り着いた自宅のソファに足を投げ出す。ふくらはぎも太もももパンパンだ。おまけに腕は肩から上がらない。

父の運転手の黒木さんが迎えに来てくれたからよかったものの、もしも自力で帰ることになっていたら、今ごろきっとどこかで行き倒れていただろう。ふたり分のゴルフバッグを抱えての電車とバスでの移動は、疲労のたまった私の体には無理だ。

かといって、タクシーに乗るわけにはいかなかった。車で一時間の距離をタクシーで乗ったなら、かなりの金額を請求されてしまうだろうから。私のアルバイトがなんの意味もなくなってしまう。
コンラッド開発の傘下に入れてもらうことが決まって安心だとはいえ、一度染み付いた節約志向はなかなか抜けないみたいだ。

一成さんからは、おじい様が緊急手術を受けることになったとの連絡が一度あったきり。心筋梗塞を起こしていたようで、まだ手術中なのかもしれない。
おじい様のゴルフバッグは、一緒に持ち帰ってきてしまった。あとで一成さんに持ち帰ってもらうつもりだ。


「それにしても大変なことになってしまいましたね。汐里様と朝比奈様のご結婚はどうなってしまうんでしょうか」

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