強引社長といきなり政略結婚!?
一日のうちに七キロも自転車を走らせたことはない。ふくらはぎがパンパンだった。
足をさすっていると、ふと私の視界の隅に靴が映り込む。
「お待たせいたしました」
かけられた声に顔を上げると、そこに立っていたのは、朝比奈さんではない別の男性だった。
「朝比奈の秘書をしております、日下部と申します」
男性の秘書だとは。秘書というと、どうしても女性のイメージだ。
黒いスーツに身を包み、朝比奈さんよりは細身に見える彼もまた、百八十センチはありそうだ。黒い短髪を整髪料できっちりとまとめ、色白で一重の目は鋭い。一見すると神経質そうも見える。
急いで立ち上がり、「藤沢汐里と申します」と私も返した。
私を上から下までざっと眺めて、日下部さんが「あなたが……」と小さい声で言う。
秘書だから、父の会社の話も私との結婚話も、きっと聞いているのだろう。その目にどこか冷ややかな感じがするのは気のせいか。
「さきほど、朝比奈さんがこちらをお忘れに……」