朝はココアを、夜にはミルクティーを
「もしも家の中に大きい虫が入り込んだら、いつもどうしてるんですか?」
洗濯物を干し終えて、リビングに戻ったところで彼に尋ねられる。
うっと答えに詰まり、洗濯カゴを抱えたまま目を伏せた。
「もう絶対に私一人では対応できなそうな時は……隣に住んでる方にお願いしてました……」
「えっ?そうなんですか?」
びっくりしたように聞き返され、力なくうなずく。
「ここに住んで三年経つんですけど、たぶん合計二十回くらいはお願いしてます……。最初に一人で大騒ぎしてたら、ベランダ越しに大丈夫ですかって声をかけてくれて。それで、申し訳ないなって思いつつ毎回頼んでしまって……」
駆除してもらったり、つまみ出してもらうたびに翌日ちょっとしたお礼のお菓子なんかを届けたりしていて、お隣さんとの関係は良好である。
しかし、亘理さんが気にしたのはそこではなかった。
「まさか、隣の方って男性ですか?」
「え?女の人ですけど……」
「あぁ、それなら良かったです」
どことなく安心したように笑うので、どんな意味で聞いてきたのか問いかけたくなったけれど、たぶん深い意味はないんだろうなと考えを改める。
一人暮らしの女性が、不用意に男の人を家にあげるのはさすがに危ない。それくらいは私にだって分かる。
まあ、彼氏でもなんでもない亘理さんと同居してる時点で矛盾しているけれど。
亘理さんは料理は一切しないけれど、それ以外の家事はほとんどこなせる。
掃除も食器洗いも、今やっていた洗濯も、どうやら嫌いではなさそう。
恋人と同棲していた時もおそらく手が空いていればすすんでやっていただろうし、なにかと手伝ってくれたはずだ。
彼の話だと少し前から関係は破綻していて、相手に好きな人がいるのも分かっていたと言っていた。
忙しくて会話が減っていたのかもしれないが、亘理さんのどこに不満があったのだろうか?
二人だけの何かがあったのだろうか?
……考えたところで、所詮は他人だから分からない。
でも、最近よく気にしてしまう。彼の別れた彼女のことを。
どんな人だったんだろうって。