最初で最後の恋だから。ーセンセイー
一つの影が二つに重なる。

「明日のテストは大丈夫か?」

振り向かなくても誰か分かる。

「自信ないです。」

「おいで。」

先生はゆっくり歩いていく。

小さな国語科準備室に入ると入り口で止まった。

「テスト期間中だからそこで待っていて。」

「ほら。」

お茶の入ったグラスを渡された。

「魔法のお茶だから。
明日は大丈夫。」

魔法という言葉と伊藤先生が似合わなくて私は笑ってしまった。

「お前はもっと自分に自信を持て。」

「・・・自信ってどうしたら持てるんですか?」

「誰かを心から信じることだ。
それが自信になる。」

誰かを心から信じる。

もしも信じる人を選べるなら私は、先生を選びたい。

「先生を信じても、いいですか。」

先生は私を見つめたまま何も言わない。

小さな部屋の空気は重い。

「俺は。」

先生の言葉を遮るように扉が開いた。

「澤村先生。」

「伊藤先生、中間テストの件で少しよろしいですか?」

「ああ、はい。」

私は押し出されるようにして外に出た。

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