徹生の部屋
ということは、いまこの家には私と徹生さんしかいないのだ。
「ではまた日をあらためて伺います。あ、これ。お口に合うかわかりませんが、よろしければ」
紙袋の中から出した、こちらに来る途中で買った手土産を渡そうとした手首が捕まえられる。缶を持っていたせいか、徹生さんの掌はひんやりとしていた。
「君に帰られたら、俺が貴重な休暇を犠牲にしてまでこの家に来た意味がなくなるじゃないか」
「ですが、姫華さんがいらっしゃらないのでは、詳しいお話もできませんし」
もし店長と私が予想した通りの原因なら、彼女に納得してもらえるように説明をするしか方法がない。
困惑に眉を寄せた私の手首から、テーブル越しに握っていた徹生さんの手が離れていく。冷たかったはずのそこが、じんわりと熱を持ち始めたように感じた。
「話なら俺がおおかた聞いてる。アイツが新しく入れた家具から、おかしな音がするというのだろう?」
「そうです。私どもは『家鳴り』が原因ではないかと思っているのですが。ええっと、家鳴りというのはですね」
私は、温度や湿度などの関係で、建材や家具が歪む時にたてる音の説明しようとした。
ところが、徹生さんに言葉の先を奪われる。
「知っている。曲がりなりにも家造りに携わる仕事をしているからな。昔は妖怪の仕業だと言われていた現象のことだ」
その通り。小さな妖怪が、屋根裏などで騒いでいる音だと信じられていた時代もある。
比較的、新しい木材を使用した、新築の家などで起こることが多い。
この洋館は建てられてからだいぶ経つ。だから、当店から搬入された家具が原因かと予想しているのだ。
「建築関係の方だったのですか」
「ああ、名刺を渡していなかったな。いまはサクラホームで働いている。今回の桧山家具との話には、俺も関わっているんだが。慎司からも聞いていなかったのか」
「店長ともお知り合いだったんですね」
自分の知らないことばかりが、彼の口から次から次へと溢れてくる。
無性に喉が乾いてきたけれど、手元にあるのは少しぬるくなってしまったビールのみ。
お酒は嫌いではない。むしろ大好物だ。
だけどいまは、これでも仕事中なわけで……。
「ではまた日をあらためて伺います。あ、これ。お口に合うかわかりませんが、よろしければ」
紙袋の中から出した、こちらに来る途中で買った手土産を渡そうとした手首が捕まえられる。缶を持っていたせいか、徹生さんの掌はひんやりとしていた。
「君に帰られたら、俺が貴重な休暇を犠牲にしてまでこの家に来た意味がなくなるじゃないか」
「ですが、姫華さんがいらっしゃらないのでは、詳しいお話もできませんし」
もし店長と私が予想した通りの原因なら、彼女に納得してもらえるように説明をするしか方法がない。
困惑に眉を寄せた私の手首から、テーブル越しに握っていた徹生さんの手が離れていく。冷たかったはずのそこが、じんわりと熱を持ち始めたように感じた。
「話なら俺がおおかた聞いてる。アイツが新しく入れた家具から、おかしな音がするというのだろう?」
「そうです。私どもは『家鳴り』が原因ではないかと思っているのですが。ええっと、家鳴りというのはですね」
私は、温度や湿度などの関係で、建材や家具が歪む時にたてる音の説明しようとした。
ところが、徹生さんに言葉の先を奪われる。
「知っている。曲がりなりにも家造りに携わる仕事をしているからな。昔は妖怪の仕業だと言われていた現象のことだ」
その通り。小さな妖怪が、屋根裏などで騒いでいる音だと信じられていた時代もある。
比較的、新しい木材を使用した、新築の家などで起こることが多い。
この洋館は建てられてからだいぶ経つ。だから、当店から搬入された家具が原因かと予想しているのだ。
「建築関係の方だったのですか」
「ああ、名刺を渡していなかったな。いまはサクラホームで働いている。今回の桧山家具との話には、俺も関わっているんだが。慎司からも聞いていなかったのか」
「店長ともお知り合いだったんですね」
自分の知らないことばかりが、彼の口から次から次へと溢れてくる。
無性に喉が乾いてきたけれど、手元にあるのは少しぬるくなってしまったビールのみ。
お酒は嫌いではない。むしろ大好物だ。
だけどいまは、これでも仕事中なわけで……。