徹生の部屋
「あっ!」

彼の食べ方に目を見張ると、逆に怪訝な眼差しを向けられる。

「食っちゃいけなかった?」

「いえ、そうじゃないですけど。頭からだなんて、ちょっと可哀想だなって」

クリーム色の黄身餡が露わになった首の断面が痛々しい。

「じゃあ、どう食べるんだ」

彼の手により包みを解かれたヒヨコが一羽、テーブルの上から私をつぶらな瞳で見つめていた。

意味もなく心の中で手を合わせ、微妙な力加減を駆使して入れた背中の切れ目から、ホロリと茶色の皮を剥く。

「……それの方が残酷じゃないのか? 拷問じみてる」

顔をしかめられ、私は皮と餡に分かれた元ヒヨコを見下ろした。
そんなことを言われたら、ポッカリと空く虚ろな目に背筋が寒くなる。

「じゃ、じゃあ。鳩型のクッキーは!? やっぱり頭からですかっ?」

前のめりで訊くと、引きつった表情で徹生さんは上体を反らし頷く。

「ほかにどんな方法があるって言うんだ」

「……袋の中で細かく割って……」

言いながら気づいてしまった。バラバラ殺鳩事件だ。
いや、でもきっと、同じように食べている人はたくさんいるはず。だって、そのほうが零れないし、食べやすい!

それでも私は、これが正解だという自信がもてずに目線と口角を下げた。

「まあ、なんでもいいんじゃないのか? 残さず美味しく食べるのなら。これに限ったことではないけど」

胴体部分をひと口で食べた徹生さんが、口の中の水分をブランデーで補う。
私はもはやヒヨコの影も形もなくなったお饅頭をおつまみに、ちびちびと味わった。


「不思議。餡子とブランデーって合うんですね」

甘いものとお酒って相性が悪いのかと思いきや、全然そんなことはなかった。
よくよく考えてみれば、ブランデーケーキなんてものがあるくらいなのだから、当然なのかもしれない。

どう食べれば悲惨さを感じさせないかに悩みながらも、一羽、二羽とヒヨコがいなくなり、瓶の中の琥珀色の割合もものすごいペースで減っていく。

それがすっかり空になっても、まだ日付が変わるまでには時間が余っていた。







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