徹生の部屋
実際のところ、桜王寺邸見学は私にとって、まさに探検だった。
博物館や文化遺産として内部を開放している、歴史的価値をもつ武家屋敷や洋館などはたくさんあるけれど、通常一般人が見学できる場所は限られている。
だけど今夜は、そういった施設ならば絶対に入れないところまで、足を踏み込めることができるのだ。
家族が集まるリビングは、当たり前だけど、応接間より濃く生活感が感じられる。
それだって、パイプを燻らせるおじいさんが似合いそうなロッキングチェアが、暖炉の前に置かれていて、おとぎ話の世界に迷い込んだみたいだ。
マントルピースの上にさり気なく飾られた、ブドウ模様のスタンドライトに息を呑む。ここに店長がいたら、さっそくお宝鑑定を始めるに違いない。
両手を広げても足りない大きな掃き出し窓からは、昼間なら手入れの行き届いた庭が望めるのだろう。
食堂には、ちょっとした晩餐会が開けそうに大きなダイニングテーブルが据えられていた。食事時になれば、パリッと糊の効いた真っ白なテーブルクロスがかけられるに違いない。
「最近は、全員が揃うことも珍しくなったけどな」
家族の成長は、時にほんの少しの寂しさが伴うこともある。
椅子の背を撫でる徹生さんの自戒めいた口調が、お盆の帰省を見合わせた私の胸にも突き刺さった。
一階に集められている水回りは、さすがに使いやすさを優先して最新式の設備にリフォームされていた。
ピカピカに磨かれた広いキッチンは厨房と呼んだほうが相応しいし、ユニットではないバスルームの浴槽は、徹生さんの嫌みなほど長い足も、ゆったり伸ばして入れそうなくらい大きい。
「檜風呂かと思った」と冗談のつもりで言ったところ、「それは別荘にある」と真顔で返され唖然とした。
「祖父母や両親の部屋はこの先だが……」
風景画や抽象画が掛けられている廊下の先に首を向ける。私は慌てて顔の前で両手を振った。
「勝手にお留守のお部屋を見せていただくわけにはいきませんから」
「じゃあ、バックヤードを案内しよう。使用人の私室は無理だが」
それこそ見学コースには入らない場所でしょう!? 胸を高鳴らせて徹生さんの後に続いた。
博物館や文化遺産として内部を開放している、歴史的価値をもつ武家屋敷や洋館などはたくさんあるけれど、通常一般人が見学できる場所は限られている。
だけど今夜は、そういった施設ならば絶対に入れないところまで、足を踏み込めることができるのだ。
家族が集まるリビングは、当たり前だけど、応接間より濃く生活感が感じられる。
それだって、パイプを燻らせるおじいさんが似合いそうなロッキングチェアが、暖炉の前に置かれていて、おとぎ話の世界に迷い込んだみたいだ。
マントルピースの上にさり気なく飾られた、ブドウ模様のスタンドライトに息を呑む。ここに店長がいたら、さっそくお宝鑑定を始めるに違いない。
両手を広げても足りない大きな掃き出し窓からは、昼間なら手入れの行き届いた庭が望めるのだろう。
食堂には、ちょっとした晩餐会が開けそうに大きなダイニングテーブルが据えられていた。食事時になれば、パリッと糊の効いた真っ白なテーブルクロスがかけられるに違いない。
「最近は、全員が揃うことも珍しくなったけどな」
家族の成長は、時にほんの少しの寂しさが伴うこともある。
椅子の背を撫でる徹生さんの自戒めいた口調が、お盆の帰省を見合わせた私の胸にも突き刺さった。
一階に集められている水回りは、さすがに使いやすさを優先して最新式の設備にリフォームされていた。
ピカピカに磨かれた広いキッチンは厨房と呼んだほうが相応しいし、ユニットではないバスルームの浴槽は、徹生さんの嫌みなほど長い足も、ゆったり伸ばして入れそうなくらい大きい。
「檜風呂かと思った」と冗談のつもりで言ったところ、「それは別荘にある」と真顔で返され唖然とした。
「祖父母や両親の部屋はこの先だが……」
風景画や抽象画が掛けられている廊下の先に首を向ける。私は慌てて顔の前で両手を振った。
「勝手にお留守のお部屋を見せていただくわけにはいきませんから」
「じゃあ、バックヤードを案内しよう。使用人の私室は無理だが」
それこそ見学コースには入らない場所でしょう!? 胸を高鳴らせて徹生さんの後に続いた。