徹生の部屋
「……い。おい、起きろ」
頬にしっとりと温かい感触がして、反射的に頬ずりする。
「んん。もう少し……」
目を閉じたままお願いすると、今度は引っ張られるような痛みがほっぺたを襲う。
「白雪姫かオーロラ姫にでもなったつもりか? それならそれで、キスして起こしてやってもいいが」
「……キ、ス?」
身に覚えのない痛みと単語を不審に思いどうにか目をこじ開けると、そこには王子さま……じゃなくて、桜王寺さまがおわせられ、られ……。
「だから、寝るなって」
再び永の眠りに就こうとする私は、ぐらんぐらんと揺り起こされる。
「うう、揺らさないでください」
なにかいけないものがこの身から出てきそう。
「調査はどうするんだ」
「調査? ん、ああ、そうだ。そうです……」
起こそうとした身体が反対側に傾ぐ。それが逞しい腕に支えられ安定すると、また瞼がゆるりと下り始めた。
起きなくちゃ。その意志とは裏腹に、ちょうどいい位置にある徹生さんの二の腕から頭を上げられない。
「ああ、これは無理だな」
諦めのため息が耳元に落とされる。
「だ、大丈夫、です」
「イヤ、どう見てもダメだ。今夜は諦めて、早く寝ろ。しばらくはここに俺がいてやる」
「そんなの、ダ、メ……です。お、客さ……」
自分ではしっかりしゃべっているつもりだけど、どうも違うらしい。
徹生さんは舌打ちすると、私の顎に指をかけて持ち上げた。
「おとなしく言うことを聞かないと、ホントにキスするぞ」
鼻先にかかった熱い息が私の意識を覚醒させる。
「寝ます。寝ますから、それは勘弁してください」
「なら、早く部屋へ行け」
介護するように立ち上がらせてもらい、ヨロヨロと歩き始めた。
重たくて半分以上開かない目の代わりに、両手で周囲を探りながら進む姿に不安を覚えたのだろうか。徹生さんが後ろから声をかけてくる。
「なんだったら、抱いて連れてってやろうか?」
「けっ、結構です。ひとりで、行けます」
中途半端に開いていたドアにぶつかりながらも丁重にお断りして、私は客間に向かった――はずだった。