徹生の部屋
簡単にいってしまえば、部屋を間違えたということだ。

シャワーを止め髪から落ちる雫が床で弾けるのを見つめながら、思いっきりため息を吐き出す。

スーツ姿でベッドに入りたくなくて服を脱いだ。ただそれだけ。
ストッキングは脱いだけど、下着は上下ちゃんと着けていた。
洗い終わった身体にも、おかしな点は見つからない。
だからきっと大丈夫。

バスルームに来る途中で回収した荷物の中から『お泊まりセット』を取り出す。
新しい下着を身につけて、フワフワのタオルで混乱する頭ごと髪をゴシゴシ拭いた。

置いてある物を自由に使って構わないといわれたけれど、シャンプーもボディーソープも良い意味で聞いたこともないブランドのもの。しかもとってもいい香り。

心なしか滑らかな手触りになった髪をドライヤーで乾かしながら、考えをまとめる。

思い返すと、私はきっとヒヨコ饅頭の辺りから酔っ払っていたのだろう。

お風呂からあがったら、数々の非礼をきちんとお詫びして日をあらためよう。今度は姫華さんのいらっしゃるときに。

でももし、もう私では信用できないと言われてしまったら……。

不覚にも鏡の中で私の瞳が潤む。東京まで出てきたのに、いったいなにをしているんだろう。

試供品でもらった化粧水を顔面に叩き込むついでに、へし折れそうになったメンタルに気合いを入れ直す。

使わせてもらったバスルームをさっと片付け、荷物をまとめて、徹生さんがいるであろうリビングへと戻った。

やはりノックは必要だよね。
観音開きの扉の前で入室を躊躇っていたら、上から声が降ってきた。

「なににしている? 早く中へ入れ」

私の後ろから腕を伸ばして、徹生さんはドアノブに手をかけた。

仄かな体温とメントールの爽やかな香りが私を包む。
頭だけを動かしてみると、Tシャツの肩にタオルをかけ、少し湿り気の残る髪を後ろに撫でつけた彼と目が合ってしまった。

「お風呂! いつ入ったんですか?」

よりにもよって、一番どうでもいい疑問が口をつく。

「俺は使用人用のを使った」

それなのに、徹生さんは律儀に答えて扉を開け、私を中に誘う。

「すみません」

たくさんのいろいろな意味を含めて頭を下げ、明るいリビングに入った。










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