徹生の部屋
「聞いていなかったのか。では、もう一度言おう。謎の音の原因を突き止めるまで、ここから帰ることは許さない」

「そんなことを言われても困ります!」

もし売ったものが不良品なら、原因を解明することは販売主としての責任だけど、監禁? 軟禁? そんなのは聞いていない。それこそ犯罪じゃないの。

「一体なんの権利があって……」

「俺はお客さま、だ」

「なっ!?」

呆れた。本当にそんなことを言う人がいるなんて。
いまどき『お客さまは神様だ』なんて、ありえない。それなのに、

「御社の製品のせいで、俺は予定外の行動を強いられここに居る。その責任をとるのは、担当した社員の当然の義務だと思うが」

あ然として言葉を失くす私の頬を指先でひと撫でし、徹生さんはイジワルで艶かな笑みを見せつけた。

「ちょうど良かったじゃないか。住みたかったんだろう? この家に。遠慮なんかしなくていい」

「別に遠慮してるわけでは……」

たしかに昨日の夜、こんなステキなお屋敷に住んでみたいと言ったのは記憶にある。だけど、なんか、だいぶ、違う。

勘違いも甚だしい彼の強引な主張はなおも続く。

「プレゼンの際、慎司が自信満々で推していたぞ。“最上級のアフターサービス”が桧山家具の売りだ、とな。だったら、それで俺の夏季休暇を満足させてみろ」

「待ってください! そんな無茶苦茶な……」

「いや。悪いが、もうこれ以上は待てない」

急に徹生さんが苦悩に歪ませた顔を接近させてくる。
息遣いが感じられるほど近づけられた唇の動きから、目が離せなくなった。

「我慢の限界なんだ」

切なげに零された呟きに、思わずゴクンと唾を呑みこむ。昨夜からずっと過剰労働させているの心臓が、悲鳴をあげている。

緩やかに口角の上がった薄い唇が、耳たぶに近づけられて、吐息を吹き込むように囁いた。

「……腹減って死にそう」
















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