徹生の部屋
* * *
エントランスに停まっていたセダンは、徹生さんのものだった。
私が助手席に乗りシートベルトをした途端、滑らかに走り出す。運転手はもちろん徹生さんである。
その動く車内で、カーナビのタッチパネルに苦戦していた。
「個人情報。あとでちゃんと消してくださいね」
ようやく社員寮の住所を入力し終わるころには、車はすでに桜王寺邸の門を越え一般道を走る。
「これから向かうのに、プライバシーも何もないだろう」
「そうですけど……」
食事に行くという彼に、腹をくくった私は、せめて一度、荷物を取りに自宅へ帰るくらいはさせてほしいと頼んだ。
真夏に着替えが持ってきた一組の下着だけでは、もう一泊だって無理。
「安心してください。警察に駆け込んだりなんてしませんから」
「なぜそんなことをする必要がある?」
真っ直ぐ前を見たまま真剣な声音で帰ってきた答えに脱力し、シートに身を沈めた。
彼には、私に無理難題を押し付けたという自覚がないらしい。
お金持ちって、御曹司って、みんなこんなに身勝手で強引なのだろうか。
平然とステアリングを操る徹生さんの横顔を眺めていた。
「なに食いたい?」
「え?」
まさか訊かれるとは思わなかったから、とっさには答えが出ない。それ以前に、この辺りのお店なんてわからない。
「……なんでも」
「それが一番面倒なんだ。じゃあ、最初にみつけた店に入るぞ」
頷いてから慌てた。高級寿司店とかに連れて行かれたらどうしよう。
店長に、接待として経費で落としてもらえるか連絡してみようか。いやいや、その前にこの状況をどう説明すれば?
グルグルと悩んでいるうちに、車が大きく左に曲がって停車する。
「ここでいいな」
徹生さんが選んだのは、私もよく行く全国チェーンのファミレスだった。
戸惑う私を車内に置き去りにして、彼はさっさと降りてしまう。窓の外から苛立たしげに顎をしゃくり、早く出て来いと急かされた。
エントランスに停まっていたセダンは、徹生さんのものだった。
私が助手席に乗りシートベルトをした途端、滑らかに走り出す。運転手はもちろん徹生さんである。
その動く車内で、カーナビのタッチパネルに苦戦していた。
「個人情報。あとでちゃんと消してくださいね」
ようやく社員寮の住所を入力し終わるころには、車はすでに桜王寺邸の門を越え一般道を走る。
「これから向かうのに、プライバシーも何もないだろう」
「そうですけど……」
食事に行くという彼に、腹をくくった私は、せめて一度、荷物を取りに自宅へ帰るくらいはさせてほしいと頼んだ。
真夏に着替えが持ってきた一組の下着だけでは、もう一泊だって無理。
「安心してください。警察に駆け込んだりなんてしませんから」
「なぜそんなことをする必要がある?」
真っ直ぐ前を見たまま真剣な声音で帰ってきた答えに脱力し、シートに身を沈めた。
彼には、私に無理難題を押し付けたという自覚がないらしい。
お金持ちって、御曹司って、みんなこんなに身勝手で強引なのだろうか。
平然とステアリングを操る徹生さんの横顔を眺めていた。
「なに食いたい?」
「え?」
まさか訊かれるとは思わなかったから、とっさには答えが出ない。それ以前に、この辺りのお店なんてわからない。
「……なんでも」
「それが一番面倒なんだ。じゃあ、最初にみつけた店に入るぞ」
頷いてから慌てた。高級寿司店とかに連れて行かれたらどうしよう。
店長に、接待として経費で落としてもらえるか連絡してみようか。いやいや、その前にこの状況をどう説明すれば?
グルグルと悩んでいるうちに、車が大きく左に曲がって停車する。
「ここでいいな」
徹生さんが選んだのは、私もよく行く全国チェーンのファミレスだった。
戸惑う私を車内に置き去りにして、彼はさっさと降りてしまう。窓の外から苛立たしげに顎をしゃくり、早く出て来いと急かされた。