徹生の部屋
お盆休み期間で海が近いこともあってか、店内はほぼ満席状態。
空席待ちを覚悟していたら、運良く帰るお客さんがいて、すぐに用意できる喫煙席でよければ、と案内された。

まだランチのある時間帯だったので、お得なセットに決める。私がメニューを閉じると同時に、徹生さんは呼び出しボタンを押した。

「トンカツ定食、飯大盛りで。それとは別で、シーザーサラダとシーフードグラタン。そっちは?」

「あ、和風ハンバーグ御膳を」

いがらっぽい喉をお冷で潤し注文を済ませると、ドリンクバーの案内をして店員さんが去っていく。
ファミレスなんて縁がなさそうなのに、あまりにも慣れた様子の徹生さんを意外に思いつつ、立ち上がった。

「飲み物取ってきます。なにがいいですか? ええっと……」

首を伸ばして眺めたドリンクの種類を伝えようとすれば、「ジンジャーエール」と簡潔な答えまで返ってくる。

自分の烏龍茶とジンジャーエールを持って席に戻ると、実にわかりやすい異変が起きていた。

「あれ? なんで桜王寺さまがそっちに」

さっきまで私が座っていた場所に、徹生さんが当たり前のようにいる。ご丁寧に水の入ったコップまで入れ替わっていた。

「細かいことだ。気にするな」

「まあ、いいですけど」

グラスを置いて席に着く。すると、またもや違いに気づいてしまった。
ほんの少しだけど、こちら側のほうが煙くない。

たぶん、エアコンなどの風向きのためだろう。周囲から届くタバコの煙の量が少なく感じたのだ。
まさか、気を遣ってくれたのかな。
テーブルの灰皿は、隅っこに追いやられて使われる様子もない。

さまざまな疑問は、思いっきり顔に出ていたらしい。
グラスに挿したストローを弄ぶ私を、徹生さんは不審な目で睨む。

「いまになって、この店が不満だとか言うなよ」

「そんなこと考えてません。ここのハンバーグは美味しくて安くて好きですから。桜王寺さまこそ、よかったんですか?その――ファミレスで」

最後のひと言だけは周りを憚り小声になる。

「どうして? 昼はよく使うぞ。独りでも社の若い連中とも」

「そうなんですか。なんかこう、オシャレなオープンカフェで英字新聞読みながら、クロックムッシュのランチでもしているイメージでした」

コーヒーはきっと、一杯千円とかしちゃうんだろうな。私の貧相な想像力では、これが精一杯のセレブランチ。

「まあ、そんなときもあるが」

あるんかいっ!?と、心の中だけで、全力のツッコミをいれた。







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