徹生の部屋
夏の西日をまともに受けながら桜王寺邸に戻る車中は、なんとなく気まずい空気が満ちていた。

あんなにかかってきていた電話はすっかりなりを潜め、微妙に渋滞が始まった道路を運転する徹生さんからは、苛立ちが伝わってくる。

「あの」

「なんだ?」

険悪な雰囲気を打破しようとして声をかけてみても、進行方向を見据えた顔の表情も変えずに返ってきた返事が、私の気力を削ぎ落とす。

なんでこっちがこんなに気を遣わなくてはいけないんだろう。
私が窓を開けて寝ていたからって、徹生さんにはなんにも迷惑をかけていないはずなのに。

それでも不本意ながら、最低でもあとひと晩はあの家にお世話になる身である。萎んだ気力に息を吹き込んだ。

「途中でスーパーに寄ってもらえませんか? 食材を買いたいので」

「食材?」

「はい。今夜の夕飯と明日の朝ご飯、よかったら私に作らせてください」

料理が特段得意というわけじゃないけれど、続けての外食には抵抗があるし、ランチをおごってもらったお礼もしたい。
朝食はどのみち必要になる。

こんなことで彼の機嫌が直るとは思えないけど、ただぼうっと深夜を待つよりは有益だ。

「ふうん……わかった」

了承は得られたというのに、再び落ちてくる沈黙。
私は、行きの車窓には見えなかった海を眺めることにした。



徹生さんは通り沿いにみつけたスーパーマーケットの駐車場に車を停めてくれた。
中堅のチェーン店なのか、それなりに店舗も駐車場も広い。ここならたいがいのものは揃いそう。

車で待っているか、と訊く前にシートベルトを外した徹生さんは表に出ていた。
真っ直ぐ入り口に向かう彼を小走りで追いかけ、冷えすぎるほどに涼しい店内に入った。

「なにか食べたいものってあります? あまり凝った料理は無理ですけど」

カゴを載せたカートを押し、野菜コーナーから回り始める。地元農家で採れたものなども置いているらしいけど、さすがにこの時間になってしまうと品薄だった。

夏だからさっぱりしたものがいいかな。
今朝キッチンを使ったとき、生鮮食品以外の調味料類などは豊富に揃ってたのは確認済みだ。

「でも勝手にキッチンをお借りしたら嫌がられるでしょうか?」

通いの料理人さんがいるというし、奥様方も不在。台所を神聖視する人は多い。
手にした長ネギを一度棚に戻す。

「それは問題ないだろう」

私が置いたネギを、徹生さんはカゴに入れた。

「鍋がいい。鍋にしろ」

「お鍋、ですか? この季節に」













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