徹生の部屋
「味は辛めがいいですか?」

思いがけず豊富なキムチ売り場で、パックを物色する。

「楓は?」

私の手元を覗き込んできた徹生さんの顔が、左耳の真横にある。それに気づいてしまったら、ピクリとも身体が動かせなくなってしまう。
今朝、いきなり舐められた場所がドクドクと脈打ち、熱を持っているように感じた。

「……あまり、辛すぎるのは、好きじゃない、です」

「なら、それでいい」

すっと斜め後ろに感じていた気配が離れ、強ばっていた肩から力が抜ける。プラスチックのケースが変形しそうなほど強く握っていたキムチのパックを、そのままカゴに入れた。

カゴがいっぱいになったカートと一緒にレジに並んでいるときに、不意に気づいてしまう。端から見たら、私たちは同棲中のカップルとか夫婦に見えてしまうんじゃないかって。

いやいや、それはさすがに自意識過剰というものだ。
思い直して、ここでも当然のように会計をしようとする徹生さんを制した。

「お昼のお礼と、宿泊費代わりです。ここは私に払わせてください」

「そんなもの必要ない」

支払いの段階になってお互いに譲らず、レジで言い合っていたら、ゴホンと大袈裟な咳払いがして、さらに舌打ちが聞こえた。

ギョッとして音の方向に顔を向ければ、三割引のシールが貼られたお惣菜と500mlの発泡酒だけを手にした中年男性と目が合う。

「す、すみません」

私が頭を下げている間に、またしても会計が済まされてしまっていた。



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