徹生の部屋
* * *

真夏の鍋パーティーの結果は、微妙なものに終わった。

味は悪くなかったと思う。
だってベースは『キムチ鍋の素』だもの。

ただ、季節物である専用のお鍋や卓上コンロがどうしてもみつからなかったのだ。
仕方なく普通の深鍋を使ってガスコンロで仕上げものをダイニングの大きなテーブルに置き、ふたりでそれをつつくという、些か情緒に欠ける食べ方になってしまった。

それでも徹生さんは、途中で具を追加するために、お鍋をもう一度火にかけたくらいたくさん食べてくれた。
もちろんビールをお供にして。
私も勧められたけど、昨夜のこともあり、秘かに禁酒を誓っていたので遠慮させてもらった。

うどんでしめて、キレイに空っぽにしてくれたお鍋を片付けるのは嬉しい。

「先に風呂に入ってくる」

キッチンで洗い物をしている私へ、わざわざ声をかけていく徹生さんに意味もなくドキドキしてしまう。
そうだ。意味なんてなにもない。

後片付けが終わり、リビングにあるソファの端に腰掛ける。

ここだけでも、私のワンルームがすっぽり入っても、まだまだ十分な余裕がある。
そんな広い空間に、ひとりでぽつんといても妙な安心感があるのはなぜなのだろう。

同じ屋根の下に誰かがいる、という意味ならあのマンションのほうが断然人口が多い。管理人さんだって常駐している。

上下左右の生活音がする私の部屋と違って、この家は徹生さんが入っているはずのお風呂の水音さえ届かない。
注意深く耳を澄まさなければ聞こえないほどの空調の音がするだけ。この家の歴史を知る調度品の息遣いさえ聞こえそうな、優しい静けさに包まれていた。

「空いたぞ」

Tシャツにハーフパンツ、首にはタオル。どこから見てもお風呂上がり、という出で立ちでリビングに戻ってきた徹生さんの髪は、まだ濡れている。

私の横を通り抜けて向かう先は、キッチンの冷蔵庫だろう。廊下から直接でも行けるのに、声をかけるためこちらに回ってくれたらしい。

なんかホント、昨日初めて入った家に初めて会った人と、こうして過ごしているのは信じられない。
そしてそれに、自分が思っていたほど違和感や嫌悪感がないことも……。









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