徹生の部屋
片付けも入浴も終わった23時。
素面でお邪魔した姫華さんの部屋は、酔っ払って入った昨夜と特に変わりはない。

「昨日はその“音”は聞こえなかったんですよね?」

「2時くらいまではいたが、気になるような物音はしなかったな」

私が泥酔及び爆睡している間も、徹生さんは約束通りひとりで番をしてくれていたらしい。あらためて申し訳ない気持ちが蘇ってくる。

いくら許可があるとはいえ、主不在の部屋の中であちこち物色するのは気が引けた。
一通り家具などにおかしなところはないかを目視してから、片隅で膝を抱えて体育座りする。

「あとは私が起きていますので、桜王寺さまはどうぞ自分の部屋でお休みになってください」

「楓がここにひとりで残るのか?」

「心配しないでください。勝手に置いてあるものに触れたり、引き出しを開けるなんてしませんから。窓も絶対に開けないようにします」

昨日の失敗は繰り返さない。眠気覚ましのコーヒーもポットに入れて用意した。

「いや、そうじゃなくて」

徹生さんは困ったように眉根を寄せ、私の正面に片膝をつく。

「知らない場所にひとりきりで、嫌ではないのか?」

「だって、姫華さんが寝起きされている部屋ですよね。それに桜王寺さまだって同じ家の中にいらっしゃるし」

セキュリティだってしっかりしてる。ベランダから簡単に侵入可能と指摘された私のマンションなんかよりもずっと安全だ。

そのつもりで答えたのに、徹生さんはさらに眉間のシワを深くして表情を曇らせる。

なにか、怒らせるようなことを言っただろうか?
おもむろに延びてきた手が頬に触れ、ビクリと肩が揺れた。

「なあ。どうしてまた『桜王寺さま』に戻っているんだ? ベッドの上では名前で呼び合ったというのに」

「な、な、なんのことでしょう? ベッドの上って……」

なんにもなかったはず! お尻を床に付けたままズリズリと壁際まで後退る。
ほんの1メートルほど開いた距離の先で、徹生さんは肩で大きく息を吐いて立ち上がった。

「覚えていないならそれで構わない」

そのまま部屋を出て行ってしまう。残された私は当然パニック。
いったい私、なにをしたのだろう。記憶が抜けていることさえ思い出せない。
























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