徹生の部屋
だけどその集中力も疲れをみせる。
襲ってくる睡魔を退治するため、借り物であるストロベリー柄のマグカップに、濃い目に淹れたコーヒーを注いだ。

その香りにつられたのか、徹生さんが画面から顔を上げた。

「あ、すみません。もうひとつカップを持ってきますね」

「いや、いい」

再び視線を戻したので、私はまだ十分に熱いコーヒーに口をつけた。
エアコンで空気が乾燥しているせいか、立ちのぼる湯気が喉や鼻に心地好い。ブラックの苦味も相まって、ほんの少し目が覚めた気がした。

ひと息ついた私の手の中からの、マグカップが消える。
あ、と思ったときにはもう、徹生さんの喉がゴクリと動いていた。

間接キス……なんて、いまどき中学生だってドキドキしない。それにさっき、同じお鍋をつついたばかりじゃない。
なのに、やけに呼吸が浅くなって息苦しい。

きっと、覚えてもいない自分を彼に知られているせいだ。

「私、もしかして昨日なにか失礼なことをしたんでしょうか?」

単刀直入に訊いてみた。

「本当に覚えていないんだな」

呆れたふうに目を見張ると、徹生さんは持っていたものをすべてフローリングに置いて、身体ごとこちらを向く。

「念のために確認させてください。その……なにもなかったですよね、私たち」

「なにも、か」

意味深な笑みを深めて、私の不安を煽る。

「どうしても思い出したいというのなら、手伝ってやってもいいが」

「……どうやって?」

無駄に艶めいた声音に嫌な予感しかせず顎を引く。

「やっぱり、再現するのが一番だろう?」

彼との距離を取ろうとして引いた腰がクッションごと滑る。仰向けに倒れそうになったところへ、すかさず彼が床との間に腕を入れて助けてくれた。

助かった、のはいいのだけれど、今度は別の危機が私を襲う。
文字通り目と鼻の先にあるのは、私に覆いかぶさって、抱えるように支えている徹生さんの顔。

サラサラ、と洗いっぱなしの黒髪が私の額をくすぐる。

「はっ、はっ……」

「離してもいいのか? 頭、強打するぞ」

イジワルな角度に口角を上げた唇が、さらに距離を縮めようと近づいてきた。

「ハッ、ハックションッ!!」












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