徹生の部屋
昼間の姫華さんの部屋も、見た目ではおかしな点はみつからなかった。
いくつかの家具を動かして裏側を覗いてみたけれど、そんなところまでも掃除が行き届いていて、不審なものはない。

「やっぱり、また夜中を待つしかないのでしょうか」

もし同じ時間帯に鳴る音ならば、徹夜するより早起きしたほうがいいのかも?
睡眠不足のせいか、ショボショボする目を擦る。

「そうだな。とりあえず腹が減った。昼飯にしないか? 車を出そう」

「さっき食べたばかりじゃないですか」

まだ十三時にもなっていない。朝食が遅かったから、私はそれほどお腹は空いていないのだけれど。

「だったら、朝炊いたご飯が余ってるんで炒飯を作りますよ。それでもいいですか?」

卵もネギもあるし、パックで買った鮭もひと切れ残っている。

再びキッチンに立って、シュッとした見た目に反し底なしの胃袋をもつ徹生さんのために、なけなしの腕をふるう。

シンプルな炒飯を山盛りにしたお皿を、彼の前にあるドンと置いた。今度はちゃんと味見をしたから大丈夫、なはず。

「楓の分はどうした?」

熱々のうちに食べてほしいのに、彼は手をつけずに訊ねる。

「私はいいんです。昨日もお鍋を食べすぎちゃったし。ごゆっくりどうぞ」

片付けをしにキッチンに戻ろうとした私の腕が引かれた。

「偉そうに人には食事の大切さを説いておいて、自分は抜くつもりか?」

えっと、それは朝ごはんの話で、仕事中のお昼はいつも、かなり適当なんですけど、とはとても言い出せない雰囲気。

徹生さんは自分の隣の椅子を引いて、そこに私を座らせた。
さらには、山盛りに炒飯をのせたスプーンを私の口の前につき出す。

「ほら、食べろ」

「え、これをですか?」

無言で頷き、スプーンの先を私の唇に押し付けてくる。
パラパラとこぼれそうになるので、仕方なしに口を開けた。

うん。我ながら美味しくできたと思う。

私がごくんと飲み込んだのを確認してから、徹生さんは満足げに炒飯を食べ始めた。
ただし、4、5口自分が食べると、次のスプーンをこちらに向けるのだ。拒んだ途端に彼の目が吊り上がるから、渋々従う、の繰り返し。

これって、昨日の間接キスなんてもんじゃない羞恥プレイじゃないですか?

最後のひと粒までキレイに食べられたお皿を洗う私の顔は、真夏の炎天下を猛ダッシュしてきたくらい熱くなっていた。




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