徹生の部屋
ドーンと、一際大きな音がお腹に響く。
続いて、数え切れない数の破裂音と満開の花火で、夜空が埋め尽くされた。

夏の海風が、音も光も、煙の余韻さえもすべて掃き消し、途絶えていたように思われた虫たちの声が戻ってくる。

「終わったみたいだな」

会場にはまだたくさんの人が残っているだろうけれど、もとからここにはふたりっきりだ。
缶の底にほんのちょっと残っていたビールを飲み干し、私は彼の背に揺られながら導き出した考えを語る。

「寿美礼さんとの縁談があったんですね。それを断るために、徹生さんは私を偽の恋人に仕立ててあそこへ連れていき、あんなことを言った。そうですよね?」

政略結婚とか、偽装恋人とか。マンガや小説の中の話だけだと思っていた。まさか、自分がその登場人物になるなんて、非現実的すぎて笑ってしまう。

ただこの物語が現実である証拠に、偽物の恋人は婚約破棄が整えば、用済みになるということ。
王子さまに見初められてめでたしめでたしの、シンデレラストーリーにはなり得ない。

私の予想を肯定するように、徹生さんは嘲笑を浮かべた。

「いまどき、家や会社のための結婚など時代遅れだと思わないか? いくら自分のとこの息子が頼りにならないからって、叔母も俺に矛先を変えることはないだろうに」

天を仰いで肩をすくめ、大きなため息を昏い庭に向かって落とす。

「柊也――俺の従弟なんだが、彼はどちらかというと学者肌で、会社経営などには露ほどの興味もないらしい。いまもヨーロッパの建造物を巡って、バックパッカーみたいなことをしてるそうだ」

「あ、それは楽しそう」

世界各地にある伝統的な建物を観て歩く。もし時間とお金と度胸があったら、自分もやってみたいと思う。
つい同調してしまった私に、徹生さんは苦笑し話を続ける。

「現在叔父が社長の座にいるサクラホームの建築部門を強化する話は少し前から出ていて、提携先として少なからぬ縁がある樺嶋建設があがった。その話に叔母は食いついたってわけだ。自分の息子が無理なら、姪を利用しようとした。この話がうまくまとまれば、これからの叔父の地位も安定するだろうし」

「いとこ同士で結婚させようとしたんですか?」

法律的には問題ないけれど、それこそ時代錯誤のように感じてしまう。

「その話を聞かされた柊也は、一目散に海外へと逃亡したというわけだ。そして息子に逃げられた叔母は、寿美礼の相手に俺をあてがおうとした。三十にもなって独り身同士だし、ちょうどいいと思ったんだろうが、まったくいい迷惑だ。寿美礼にしたって、副社長の仕事を辞める気なんてこれっぽっちもないっていうのにな」

うんざりといった様子で、新しいビールを開ける。

















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