公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
その打ち明け話に彼は驚くのではなく、同情するのでもなく、クッと笑って私の顎をつまんできた。
「孤児院……なるほどな。それがお前の原動力ということか」
顔を彼の方に向かされて、逸らす自由を奪われた。
私たちはそのまま見つめ合い、お互いの思惑を探り合う。
孤児院育ちと知っても、彼にはそのことを卑下する気持ちはないように見える。
ニヤリと悪巧みをしてそうな口元を見る限り、孤児院というキーワードを、私を操るための鍵にしようと企んでいそうな気がした。
なにを企んでいるのか知らないけれど、おそらく私はそれに乗ってはいけない。
操られるのではなく、私が彼を動かさないと。
でも、どんな言動を取ればこの人の心は私に傾くの?
早く夢中にさせたいのに、思うようにいかないわ……。
琥珀色の瞳の奥を覗いて無言の間が数秒続いていたら、急に喧騒の中から怒鳴りつけるような男性の声が響いた。
「なんてことをしてくれたんだ! 下ろし立てのわしの上着に染みをつけるとは、不届き者め!」
ハッとして声の方に振り向くと、そこはすでに人垣ができていた。