公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「どこの家の者だと聞いておるだろう。答えぬか!」
語気を強めて男が半歩、私との距離を詰めるから、ビクリと肩を揺らして身構える。
すると、後ろから聞き覚えのある響きのよい声がした。
「私の家の侍女ですよ。アクベス侯爵」
やっと出てきたのね……。
他の人たちと同じように、傍観だけの薄情者と見なすところだったわ……。
ジェイル様は私の隣に並ぶと、やれやれと言いたげな視線を私に向ける。
それから上品な作り笑顔を、目の前の男に向けた。
アクベス侯爵と呼ばれた貴族は、フンと鼻を鳴らして剣の柄から手を離す。
「オルドリッジ公爵でしたか。侍女がいるということは、母君はもう町屋敷にお越しということですかな?」
侍女とは一般的には女性の上級貴族の付き人だ。
アクベス侯爵は、私のことをジェイル様の母親の侍女だと思って聞いたみたい。
「いいえ。私の家族は今年、王都に来ないことになりまして、この娘は私の侍女として雇っています」
ジェイル様がそう答えると、アクベス侯爵はしゃがれ声で低く笑った。