公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
その姿が完全に見えなくなったら、人の輪も散り散りに、買い物客で賑わう元の広場の状態に戻った。
私のお尻にしがみついていた少年は、やっと手を離して前に出てくる。
「お姉ちゃん、ありがとう!」と無邪気な笑顔を向けていて、私はワンピースの裾が地面につくのも厭わず、しゃがんで目の高さを合わせた。
茶色の短い癖毛を撫でて、「怪我はない?」と心配する。
「うん、あのおじさんにぶつかったときに尻餅ついちゃったけど、痛くないよ」
「そう、よかったわ。これからは気をつけてね。人の多い場所では周りをよく見て歩かないといけないのよ」
相手はまだあどけない顔をした小さな子供。
優しく怖がらせないようにと、私は微笑みながら注意を与えた。
すると上から「そんな言い方では、効果はないだろう」という声がして、中腰になったジェイル様が突然、少年の襟首を掴んで引っ張り、顔を近づけた。
「お前、死にたいのか?」と、子供相手に凄んでいる。
「ちょっと、なにしてるのよ!」
慌てた私は少年を抱えるようにして、彼から引き離す。
助けてくれた大人に怒られて、子供の目には見る見るうちに涙が溢れ、怯えて再び私にしがみついてきた。
それを可哀想に思う私は、ジェイル様をキッと睨み上げて非難する。