公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「分かったら家に帰れ」
ジェイル様は少年の手に銀貨一枚を握らせてから、肩を掴んで向きを変えさせ、トンと背中を押した。
少年は二歩進んで足を止め、手の中を確認している。
それからおずおずと肩越しに振り向き、怯えと疑問の混ざった視線をジェイル様に向ける。
「明日、親と一緒にここに来て、落とした菓子を買ってもらえばいい。ひとりで来るなよ」
「う、うん! ありがとう!」
走って広場を出ていく小さな背中を見送りながら、私は立ち上がって彼と並び、クスリと笑った。
「銀貨一枚とは、お菓子が何十個も買えるわね。ジェイル様の方こそ甘いじゃない」
「そうだな。これからは厳しくするか。クレアの言葉遣いも直さんとな。俺以外の貴族には軽々しい口を利くなよ」
「私には、命が惜しければ一切の口答えをするなと言わないの?」
「お前は自分の命を惜しまないと知っているからな。処刑覚悟で視察の馬車を止めた女だ。そんな注意は無駄だろう」