公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
右隣りを見ると、吹き込む海風に彼の前髪が揺れていた。
目幅を狭めて遠くを見つめる彼の気持ちは読めないが、私が話したゴラスの窮状に心を痛めていることを期待してしまう。
石造りの窓の縁にのせている彼の左手に、そっと自分の手を重ねると、琥珀色した瞳の視線だけが私に流された。
「ジェイル様、お願いです。どうかゴラスに改革をもたらして。小さな子供たちまで働かねば食べていけない。病気になっても医者にかかることもできない。私たちを貧困の苦しみから救い出して」
広場で子供をきつく叱ったのは、あの子を案じる彼の優しさだった。
ジェイル様は私利私欲のみで動くゲルディバラ伯爵のような悪人じゃない。
期待を膨らませて頭を下げてお願いしたが、返ってきたのは「やめろ」という冷たい返事。
「前にも言ったよな。なぜ俺が欲しくもない土地の民を救わねばならん。クレアの生い立ちには同情するが、他の領民たちに心を砕けるほどの関わりはない。今後も関わるつもりはない」