公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
長い廊下の壁に、ポツリポツリとスコンスが灯されていても、照度を最小まで絞っているため薄暗い。
誰もが寝静まった屋敷は昼間と違う顔を見せ、廊下に飾られた額縁の中の貴婦人に、じっとりと睨め付けられているような錯覚に陥る。
秋が深まると夜間は冷え込み、ゾクゾクと粟立つ肌が、不気味さを助長させているのかもしれないが。
やっと階段までたどり着いたら、ふと人の話し声に気づいた。
思わず廊下に飾られた彫像に振り向いてしまい、そんなはずはないと、落としそうになった水差しを持ち直す。
途切れ途切れに聞こえてくる低い声は男性のもので、耳を澄ませばジェイル様の声に似ている気がした。
この先の北棟の廊下の角をひとつ曲がれば、執務室がある。
きっと執務室内での会話が夜のしじまに漏れていて、会話の相手はオズワルドさんだろう。
今夜中に処理しろと命じ、オズワルドさんに書類を渡していたことを思い出していた。
ジェイル様の仕事内容は知らないけれど、こんなに遅くまで執務室にこもるほどに大変なのかしら……。