公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
興味がそそられて階段を下りることなく、足を北棟に向けていた。
食べることとは違い、立ち聞きすることに罪悪感は覚えない。
声を落とさない会話ということは、聞かれて困る内容ではないだろうから。
足音を忍ばせて北棟の廊下を進み、執務室前にたどり着いた。
ドアの隙間から漏れるのは橙色の光と、オズワルドさんの声。
「私は反対いたします。付け焼き刃の教養では、ジェイル様の伴侶は務まりません。辺境伯の血筋といえ、育ちはただの町娘。お考え直しください」
いつも従順な近侍である彼が、主人に意見していることに驚いたが、内容はそれ以上のもの。
『ジェイル様の伴侶が務まらない』の主語は、私よね?
ジェイル様が、私を妻にしたいとでも言いだしたの!?
聞き間違いを疑う私の耳は、次に不機嫌そうなジェイル様の声を捉える。
「俺にアクベスの娘と結婚しろと言うのか?」
「そうは申しておりません。ルイーザ嬢でなくとも、マリオット伯爵やペラム伯爵のご令嬢でも、よろしいではありませんか」
「オズワルドよ、つまらん女を勧めてくれるな。クレアは気骨のある女だ。なかなかいないぞ、この俺を操ろうと企む女は」