公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

◇◇◇

胸に契約のバラを咲かせた日から、三日後の夜。

空高くに晩秋の小さな月が輝く中を、華やかな真紅のドレスに身を包んだ私は、ジェイル様にエスコートされて屋敷の中に足を踏み入れた。

ここはマリオット伯爵邸。

舞踏会の招待状に記載されているのはジェイル様の名前だけで、私の名はない。

存在すら知られていないのだから、それは当然のことで、この屋敷の執事に案内されて二階にある大広間に入れば、入口付近にいた複数人の貴族たちの視線が、一斉に私に向いた。

ジェイル様の腕に手をかけている見たことのない娘は誰かと、ヒソヒソと会話が交わされているようだ。


「オルドリッジ公爵がお見えになりました」という執事の知らせに、他の貴族への挨拶を中断してあたふたと歩み寄るのは、この屋敷の主人、マリオット伯爵。

茶色の燕尾服に金のブローチを胸に飾り、中肉中背の四十歳の紳士で、下がった眉尻と頬に大きなほくろがあるのが特徴的。

性格は温和で決断力が弱く、他貴族に押されがちだが、夫と真逆の性格をしている夫人に尻を叩かれるようにして、このような大規模で豪華な宴を毎年開催している。

息子がふたりと娘がひとりいて、十七歳のフローレンス嬢はジェイル様の花嫁候補のひとりだ。

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