公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

それらの情報は、ジェイル様の指示でオズワルドさんが作成した資料に書かれていたことで、一文字の忘れもなく、すべてが私の頭に刻まれている。

頬の大きなほくろを見ながら『ほくろというより染みね』と感想を持っていたら、「お待ちしておりました」と手もみをするマリオット伯爵の視線が、ジェイル様から私に向いた。


「失礼ですが、こちらのお嬢様は……?」


ジェイル様の黒い燕尾服から手を離した私は、ドレスのスカートを品よくつまんで軽く腰を落とし、挨拶をする。


「お目にかかれて光栄に存じます。私はアドニス・ボルドウィンの娘、クレアと申します。マリオット伯爵におかれましては、ご清栄のことお喜び申し上げます。父がかつてずいぶんと恩を受けたと申しておりました。本日は父に代わりまして、ご挨拶を」


作り笑顔を向けた私に、マリオット伯爵は戸惑うような笑顔を見せている。

それもそのはず。アドニス・ボルドウィンなどという人物は存在せず、彼が世話したこともないのだから。

それでも自分が忘れているだけかと危ぶむ彼は、話を合わせようとする。


「そうでしたか。あなたがボルドウィン……ええと……」

「ボルドウィン子爵ですよ。足を悪くされて以降、何年も領地から出られずにいてお気の毒ですが、まさか子爵をお忘れに?」


そう言ったのはジェイル様で、その声色には焦らせて楽しんでいる雰囲気が滲んでいるのを、私だけは感じ取っていた。

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