公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「と、とんでもない! もちろんはっきりと覚えておりますとも。あのボルドウィン子爵の小さな御令嬢が、このように麗しいお嬢様に成長されたとは、いやはや月日が経つのは早いものですな」
目に見えて慌てているマリオット伯爵は、これ以上話を広げられると困ると思ったのか、すぐに挨拶を終わらせようとする。
「我が家の宴は堅苦しさを抜きに楽しんでいただきたく、ダンスが始まるまではどうぞご自由にお過ごしください。隣室に料理もたっぷりと用意してございます。では、また後ほど」
そそくさと立ち去るマリオット伯爵を見送ってからジェイル様と目を合わせると、どちらからともなく吹き出して笑ってしまった。
ありもしない子爵名を名乗れと彼に指示されたときに、挨拶中にすぐに嘘がばれるのではないかと予想もしたが、まったく問題なかった。
『貴族という生き物は、往々にして見栄っ張りで知ったかぶりだ。そんな子爵がいただろうか?とは、誰も言わんだろう』と、彼がニヤリと笑って言った言葉は正しかった。