公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「頼もしいな」とフッと笑うジェイル様は、やっと挨拶が途切れたので、私の腰に腕を回して壁際に誘導する。
すると大広間の全体が見渡せた。
女たちは色とりどりのドレスやリボンで華やかに装い、男たちは燕尾服に身を包んでいる。
茶や深緑、濃紺色が多く、忙しく給仕する執事と同色の黒を着ているのは、ジェイル様だけの様子。
それでもジェイル様が執事に見間違えられることはない。
生まれながらの貴族然とした迫力と、高潔なまでの美しさを備える彼は、たとえボロを身に纏っていたとしても、貴族にしか見えないことだろう。
壁際に移動してすぐに、音楽が流れ出した。
広間の隅には楽団がいて、ピアノだけが流行曲を控え目な音色で奏でている。
すると若い男性たちが移動し始め、目当ての娘にダンスの申し込みをしていた。
私の周囲にも二十名もの男性が集まってきて、「ぜひ一曲」と誘ってくる。
誰もかれも鼻の下を伸ばした締まりのない顔をして、目だけは欲望に色めき、気持ち悪い。
一曲目の相手を選べずにジェイル様の指示に従おうと隣を見たら、遅れて到着した貴族がちょうど挨拶にやって来たところだった。
その男性貴族だけは、私と初対面ではない。
白髪混じりの肩までの茶色の髪に、長身で恰幅のよい紳士は、港の青空マーケットで子供を叱りつけていたアクベス侯爵だ。
夫人と娘のルイーザ嬢を連れている。