公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「これはこれは、いつぞやお会いしたお嬢さんではないですか」と、アクベス侯爵は横目で私を見ながら、「侍女付きでお越しとは、どういうことですかな?」とジェイル様に問う。
マーケットで遭遇したときには、私のことを『最近雇い入れた侍女』と話していたから、疑問に思われて当然だった。
「お久しぶりにございます」と、それだけ挨拶した後は、口を噤んでジェイル様に任せる。
彼は「あのときは侍女とごまかしてしまい失礼いたしました」と一応詫びてから、他の貴族に説明したのと同様に、私の偽の身元を口にした。
するとアクベス侯爵が顎髭を指先でしごきながら、訝しむような目つきをする。
「ボルドウィン子爵……知りませんな。どの辺りに領地をお持ちですかな?」
他の貴族は皆、知っているふうを装い、無知を悟られまいと話を合わせてきたのに、この人だけは違うみたい。
嘘を見破られた気がして身構える私に対し、ジェイル様に動揺はなく、「我が領地の一画を管理させています。遠縁にあたるもので」と余裕の笑みでさらなる嘘を重ねていた。