公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
自分の仕事に集中しようと、煩く文句を言ってくる夫人を無視して、涙目のフローレンス嬢の側に寄り、心配しているふりをする。
「おかわいそうな、フローレンスさん。心中、お察しいたしますわ」
胸元からレースのハンカチを取り出して、彼女の目に溜まった涙を拭いてあげると、「あの……」と、か細い声を聞いた。
戸惑うような瞳は、『あなたは私の味方なの?』と尋ねているかのようで、にっこりと微笑んで頷いて見せた私は、水色のドレスの華奢な背中を撫でながら、耳元でそっと囁いた。
「心配いらないわ。あなたの悩み事は、私がすぐに解決してあげる」
「ほ、本当ですか……?」
「ええ。ここは騒がしいから、バルコニーに出ましょう」
彼女が頷くのを確かめてから、まだ後ろで喚き立てているマリオット伯爵夫人に向き直り、毅然と言い放った。
「おばさん、さっきから煩いですわ。まるで季節外れの油蝉のようね」
「あ、油蝉!?」
「そんなに気に入らないのなら、ご自分でふたりを引き離しに行ってください。はしたなく喚くのがお上手なご様子なので、きっと上手くいきますわ。私はフローレンスさんの心の傷を癒してあげたいの。邪魔になるからついてこないてください」