公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
目を白黒させる夫人は、魚のように口をパクパクさせるだけで、言い返す言葉を見つけられない様子。
その隙をついて私はフローレンス嬢の背を押すようにして歩みを促し、大広間のバルコニーの扉を開けて、ふたりきりで外気の中へ出ることに成功した。
バルコニーはアーチ型をしていて、細工を凝らした白大理石の手すりが、月の光を青白く反射させていた。
ガーデンチェアとテーブルが置かれているが、そこには座らずに、彼女と並んで手すりにもたれ、夜風にさざめく暗い色をした庭木を眺める。
「ショールを用意すればよかったかしら。寒くない?」と声をかけると、彼女は首を横に振ってから、なぜか尊敬の眼差しを向けてきた。
「あの……」
「クレアよ」
「クレアさんは頼もしいお方ですわね。お母様をあのように言い負かしてしまわれるなんて。お父様ですら、意見することができずにおりますのに」
マリオット伯爵夫人を黙らせたことが、尊敬の理由だったみたい。
気弱な彼女もマリオット伯爵も、夫人に逆らうことはできないようで、それをいくらか煩わしく思っているようだ。