公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

ルイーザ嬢まで後五、六歩のところで、若い男性貴族が私に気づいて立ち上がり、頬を紅潮させて近づいてきた。

彼の後にルイーザ嬢も立ち上がる。

彼女が用があるのは、私ではなくジェイル様。

得意げに微笑むその顔を見れば、『やっぱりわたくしのところへ戻ってきたのね』という心の声が聞こえてきそうな気がした。


男性貴族は私の前で足を止め、「クレア嬢、ぜひ私とダンスを一曲」と言って手を差し伸べる。

興奮気味に膨らんだ小鼻に、いやらしい目つき。

燕尾服の袖口は鼻水を拭ったのか、筋状に光る部分があった。


不快感にしかめそうになる表情を無理やり笑顔に変えて、私は彼の手に自分の手を重ねようとする。

すると、ジェイル様に手首を掴まれ、止められた。

仰ぎ見た彼の口の端は、なにかを企んでいるように、少々吊り上っている。


私はこの人と踊り、ジェイル様はお待ちかねのルイーザ嬢とまたペアを組むつもりなのでしょう?

それなのに、私の手首を捕らえた意味は、一体なに?


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