公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
彼の香りに流されぬように

◇◇◇

舞踏会から二日後。

今日はディアナ嬢がこの屋敷を訪問する日だ。

秋晴れの空の下、約束の十五時少し前に彼女は侍女を伴いやってきた。


ジェイル様は今朝、私と打ち合わせた後に、仕事のために城に出向いている。

ディアナ嬢を陥れる策略に彼も参加してもらわねばならないので、帰宅は十七時をお願いしていた。

玄関で彼女を迎えた私は、再会を喜ぶ振りをして招き入れる。


「ディアナさん、よく来てくださいましたわ。私、昨日からソワソワして、とても楽しみにしていたのよ」

「こちらこそ、お招きありがとうございます」と満面の笑みを返してくれる彼女は、後ろに控える侍女を隣に並ばせて、紹介する。


「私の侍女のマチルダです。連れて来てしまったんですけど、いいかしら?」

「ええ、もちろんよ」と頷いたが、ディアナ嬢ひとりの方が罠にはめやすく、こちらとしては都合がいい。

とはいえ、侍女付きで来ることは予想の範囲内で、私は両手に持っていたリボンで飾った正方形の紙箱を侍女の手に押しつけて言う。


「マチルダさんが一緒にいらしてくれてよかったわ。これ、アップルパイなの。ペラム伯爵夫人とディアナさんの弟さんに召し上がっていただきたいと思いまして」


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