公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
喜ばしいことのはずなのに、なぜか胸に湧き上がる寂寥感。
それを意志の力でぐっと押し込め、別れがたいと感じる心と戦っていた。
愚かな恋心など抱きたくはない。
目的の遂行のみに意識が向くよう、もっともっと心を冷やさなければ……。
ペラム伯爵父娘は帰り、屋敷の中の片付けも終わっていた。
いつもより遅めの晩餐も沐浴も済ませ、自室へ戻ろうと階段を上っていると、二階まで後少しのところで上から降りてきたジェイル様と鉢合わせた。
「お休みなさい」と挨拶して、脇を通り抜けようとしたら、サッと出された彼の左腕にお腹のあたりを捕らえられる。
「なに?」と左に顔を向けると、まだ悪巧みをしていそうな琥珀色の双眸と視線が交わった。
「やけにつれない態度だと思ってな。またヤキモチか?」
からかうようなその言い方に、沐浴後の清涼感は消されてムッとする。
とはいえ、雇い主を相手に口喧嘩する気もないので、「意味が分からないわ」と至極冷静に言い返すにとどめておいた。
すると、面白くないと言いたげに彼の眉間に皺が寄る。