公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
リッキーが小さく首を横に振る。
「メアリーはもう、なにも食べられないんだ。薬も飲めない……」
そう言い終えたと同時に、彼の瞳から涙が溢れてこぼれ落ちた。
「お姉ちゃん」「クレア姉ちゃん」と口々に叫んで、他の子供たちが一斉に私に駆け寄り、泣きながらしがみついてきた。
子供の囲いがなくなると、白い木箱が見え、私はやっと事態を理解する。
食堂の真ん中に安置されているのは、棺だった。
メアリーの……。
コツコツと後ろに靴音がして、乳飲み子を抱えたシスターが食堂に入ってきた。
衝撃のあまりに言葉をなくしている私に、シスターは静かな声で教えてくれる。
「メアリーは今朝方、息を引き取りました。クレアに『ありがとう』と言ってましたよ。メアリーはやっと苦しみから解放されたんです。今頃は神の御許で安らかに微笑んでいることでしょう」
シスターに涙はなく、とても落ち着いていた。
長い年月、孤児たちをひとりで面倒みてきた彼女は、子供の死に慣れているのだ。
悲しんでいないわけではなく、心の整理のつけ方に長けているという意味での慣れ。
ひとりの子供の死に打ちひしがれていては、残りの子供たちの世話をできなくなってしまうから。