公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
疑問だらけの戦の終戦協定を結んだのは、アクベス伯爵だった。
エリオローネ家不在の領地の管理を国王に許されたからだ。
その協定とは、辺境伯領の北と南を二分するように流れる川を境に、領土を折半するというもの。
アクベス伯爵が手に入れたのは、豊かな平野と貿易港のある南側だった。
加えて戦争の被害を半分に抑えたという功績で、アクベス家は侯爵の爵位を国王から授与されることとなり、一気に有力貴族の仲間入りを果たす結果となった。
この戦で勝利を収めたのは、隣国ではなく、アクベス家だと陰で囁かれるほどに……。
そこまでの話を、私は口を挟まずに静かに聞いていた。
自分の出自などどうでもいいと思い生きてきたが、彼の話し方が上手だったためか、見たこともない父や祖父の姿を想像し、その無念を思い遣ろうとする気持ちが芽生えていた。
母から聞いた話を合わせて、考えを巡らす。
父は祖父に逃がされたと母に教えられたが、それは暗殺されることに気づいた祖父が、エリオローネ家の滅亡を防ぐために命じたことなのかもしれない。
祖父と同じく命を狙われていた父は、親戚縁者に頼っては迷惑をかけると思い、身分を隠してひっそりと平民として暮らすことを選んだのだろう。
家の再興の機会を狙いながら。
その機会は訪れないまま、父もまた亡き人となってしまったが……。