公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

私が頷くことを期待していた彼は、期待外れな展開に眉間に皺を刻む。

睨むような鋭い視線を向けてくるけれど、それに気圧されることなく、私はキッパリと断った。


「残念だけど、私のことは諦めて。私の故郷はゴラスで、改革したいのもゴラスだけ。プリオールセンも家の再興も、興味はないのよ」


胸を握るように触っていた彼の手をどけて立ち上がり、服を直して靴を履く。

「クレア」と呼び止められたが、私は振り向きもせずに彼の寝室を出ていった。

そのまま早足で二階の自室に戻り、内側からドアに鍵をかけたら、やっと気を緩めることができた。

ずっと緊張の中にいたから、疲れたわ……。


しかし、ドアに背を預けて深呼吸をすると、この部屋にはいないというのに、彼の存在を感じてしまう。

それは、この体から香るバラの香料のせいで、彼と同じ香りを望んでつけてもらったことに後悔していた。


今夜は、彼の香りに包まれて眠らねばならないのね。

理性の効かない夢の中で『このまま朝まで、俺に抱かれて眠るか?』と同じ問いを投げかけられたら、私はどう答えるのだろう。

今度は頷いてしまいそうで、自分が怖いわ……。


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