公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
象牙の冷たい滑らかさを手の平に感じながら、私は心で亡き両親に語りかける。
貴族って、みんなゲルディバラ伯爵のような人ばかりなの?
だとしたら、貴族は大嫌いよ。
そう言ったら、お父様とお母様は、怒るかしら……。
この夜よりも深い闇を心に抱え、私はユラユラと町をさまよう。
すると、遠くの方にランプの灯りが小さく見え、それは私の方へと近づいてきていた。
怒りと悲しみに蝕まれて疲弊した心には、危険を察知することができず、身を隠すことなく歩き続ける。
すると、「何者だ」と闇の中に低い声がして、走り寄ってきた男にランプで照らされた。
「クレアじゃないか! こんな夜になにをしているんだ。今夜は外出禁止令が出されているのを知らなかったのかい?」
その男は見回り中の兵士で、私にカメオのブローチを貢いだ人だった。
外出禁止令……。
そう、そんなことをドリスが言っていた気もするわね。
でも、どうでもいい。ゲルディバラの言うことを聞くのは、もううんざりよ。
兵士を無視して、私はまたフラフラと歩き出す。
「クレア、おいクレア、待て!」
男が後ろから私の肩に手をかけて引き止めようとするから、その手を払い落とし、吐き捨てるように言った。
「触らないで。汚らわしい」
暴君に仕えて、私たちを取り締まるだけの兵士に、これまで以上の嫌悪を感じる。
行き場のない怒りを、見知った彼にもぶつけてしまった。