公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
それでも、アクベス侯爵が近づく気配を感じて、緊張はどんどん強くなる。
すぐ横に侯爵の上着の袖が見えた。
思わず身構えたが、そのまま素通りされ、「ルイーザ、こっちに来なさい」と、侯爵は娘を呼び寄せていた。
すぐにルイーザ嬢は立ち上がり、父親とともに舞台の横で休憩中の一座のもとへ。
私が話しかけられなくて、よかったわ……。
「ノーマン座長、お久し振りですな。我が屋敷で公演を依頼したのは……」
侯爵は劇団の座長にそのように声をかけていて、どうやら初対面ではない様子。
アクベス家の催しでも、度々この一座を呼んで芝居をさせているようだ。
アクベス父娘を前にして慌てて立ち上がった座長は、休憩中の役者も全員立たせて、お得意様に恭しく頭を下げている。
その後は笑い声があがるほどに、侯爵と会話を弾ませていた。
それを見て、私はやっと緊張を緩める。
なんだ、私じゃなく、劇団に用があったのね……。
広間には黒服の執事が行き来して、トレーにのせたグラスのワインを給仕している。
男性たちは遊びながら浴びるほどに飲んでいるし、ワインではなく紅茶と茶菓子を求める婦人もいて、なかなか忙しそう。