公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

休演中の舞台前を歩いていた執事のひとりが、アクベス侯爵に呼び止められていた。

侯爵はトレーにのせられたすべてのワイングラスを、そこにいる者たちに配るようにと指示している。

一座にワイングラスを持たせて乾杯している侯爵は、上機嫌に見える。

広間に入ってきてから私に少しの関心も向けず、ワハハと笑う侯爵を見て、『なにかおかしいわ……』と心に呟いた。


ジェイル様は、私の素性を知ったばかりの侯爵が血相を変えていたようなことを話していたのに。

本当なのかと問いただされ、こう答えたとも言っていた。


『もうじき分かることです。あなたも国王陛下も諸侯らも』


アクベス侯爵としては、辺境伯の娘の存在を公にされては困る立場にいる。

辺境伯領の支配権を失うかもしれないのだから。

今はいつ公表されるかと戦々恐々としているはずなのに、なにごともなかったかのように笑って芝居について語らうなんて、おかしいわ……。

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