公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
唇が液体に触れる前に、急に斜め後ろから伸びてきた手に、ワイングラスを奪われた。
驚いて振り向くとジェイル様がそこにいて、紳士的な作り笑顔を浮かべながら、なぜか「お前は飲むな」と小声で私に指示をした。
そう言われた意味も、玉突きをしていたはずの彼が突然舞台に上がってきた理由も分からずに、私は目を瞬かせる。
そんな私の前で微かに口の端を吊り上げてみせた彼は、奪ったグラスに唇をつけ、三分の一ほどを一気に口に含んでみせた。
「キャア!」と、突然悲鳴が後ろに上がる。
肩をビクつかせたら、ルイーザ嬢が私を押しのけるようにしてジェイル様に詰め寄った。
「飲んではいけません! 早く吐き出して!」
血相を変えて叫ぶ声は周囲の注目を集め、音楽は止んで完全に芝居は停止していた。
ルイーザ嬢は彼の手からグラスを取り上げると、残っている中身とともに床に投げ捨てる。
カチャンとガラスの砕ける音が、静かな舞台に響いて聞こえた。