公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
強い恐怖から解放されると、脱力して立っていられず、その場に崩れ落ちた。
床に両膝とお尻をつけて座り、自分の体を両腕で抱きしめて、震えを抑えようとしていた。
ジェイル様は私の前に片膝をつくと、私の顎をすくって顔を覗き込む。
「安心していいと言っているだろう。なぜ泣く?」と問う声には、戸惑いが滲んでいた。
そう言われて私は、泣いていることに気づく。
瞳を潤ませる涙はすぐに溢れ、頬に一筋の流れを作っていた。
泣いたのはいつ以来か……。
それはきっと、母が亡くなったとき。
メアリーの死を知ったときも相当に衝撃を受けたが、泣けなかった。
泣いてはいけない気がして、どす黒い怒りを胸に抱え、自分にできることを探していた。
そんな私が泣くとは、自分自身も予想外。
これは激しい恐怖から解放された、安堵感によるものだろう。
泣くほどに私は彼の死が怖かったのだ。
彼を失うくらいなら、自分が毒を飲んでいたほうがマシだと思うほどに。
そこに私は、確かな愛情を見つけていた。
胸に手を当て、自分の気持ちと正面から向かい合う。
もう気づかないふりはできない。
ごまかすこともできない。
私はいつの間にか、ジェイル様を愛してしまっていた……。