公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
安堵の後には、怒りが湧き上がる。
顎にかかる彼の手を払いのけると、キッと睨みつけ、その頬を力一杯引っ叩いた。
パチンと痛そうな音が響いたが、ジェイル様は動じない。
不機嫌になることもなく、ただじっと私の目の奥を覗き込んでいる。
雇い主に対しての無礼や、皆が注目していることなど意識に上らずに、私は感情のままに彼に怒りをぶつけてしまった。
「おそらく遅効性って、そんなの可能性にすぎないじゃない! 危ない真似をされるくらいなら、私が飲み干していた方がマシだわ! あなたになにかあったら、私は……私は……」
涙が量を増し、唇が震えだして、それ以上の言葉は嗚咽の中に沈む。
逞しい両腕が私の体に回され、強く抱きしめられた。
「クレア……」
広い胸に顔を押し当てているため、彼がどんな表情でいるのか分からないが、私の名を呼ぶその声はなぜか悲しげで、抱きしめる力強い腕には慈愛が感じられた。