公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
そこには並んで立つアクベス侯爵夫妻の姿があり、侯爵は苦虫を噛み潰したよう顔をして事態を静観していた。
「オルドリッジ公爵、一体なにがあったのか、説明していただけるかしら」
再び彼の名を呼んだのは、王妃だ。
二列に並んだ観客席の椅子の後ろで、腰に手を当て怒りに顔を歪めている。
その両脇には国王の近侍のふたりがいて、直立不動の姿勢から厳しい視線をこちらに向けていた。
国王はというと……王妃と近侍の陰に隠れるようにして、顔だけ覗かせている。
私は震えの収まった足に力を込めて立ち上がり、この事態をどう収束させるつもりかと、ジェイル様の横顔を見ていた。
彼の口元には、紳士的な作り笑顔が戻されている。
焦りは微塵も感じられず、どうやらこの状況さえ、彼の企みの内にあったようだ。
ジェイル様は怒りの中にいる王妃に、「大変失礼をいたしました」と頭を下げて謝罪し、それから堂々たる態度で釈明を始めた。
「ちょっとした、女性同士のいざこざなのですよ。ご存知の通り、私は将来の伴侶を決めかねております。私のハッキリとしない態度が原因で争わせてしまいましたので、どうか御令嬢方には寛大なお心を」