公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
私の沐浴の手配より、ジェイル様の側にいたい様子のオズワルドさんを見て、「ひとりで洗えるわ」と私は横から口を挟んだ。
今まで沐浴をメイドに手伝わせたことはないのだから、気を使って言ったわけではないけれど。
しかしジェイル様に「今日くらいはメイドにやらせろ。お前も疲れているだろ」と言い返された。
「オズワルド」
「はい、かしこまりました……」
オズワルドさんの視線がチラリと下に落とされたのは、そこに気になるものがあったからだ。
それでも彼は目にしたものには触れず、主人の指示に従い、別棟へと足を向けて玄関ホールから歩き去る。
オズワルドさんがなにを気にしたのかというと、私たちの繋がれた手だ。
王城を出て馬車に乗り込んだ後、ジェイル様はずっと私の手を握りしめていた。
『お前の仕事は終わったな。あとは俺がゴラスの政治に介入すれば、取引は終了だ。いきなり議会の審議にかけるわけにいかないから、三カ月ほど待ってくれ。根回しが必要なんだ』
『ええ……』
『心配するな。約束は守る。住みよくなった町にお前を帰してやるから』